「電磁気学は最も完成された完全な体系の理論である」との枕ことばが論文やテキストに用いられることが多いですね。このことは多くの物理学者、数学者がかかわって徐々に体系化されてきた過程でエレガントな方程式群にまで洗練されたことと、電磁気理論と特殊相対論をベースにした量子論が理論値と実験値で整合したこと、電磁気単位の複雑な並立の時代と変遷とをへてようやく統一されてきたこと、これらの経緯をみると全くうなずけるのです。 実際電場と磁場の関係を表すマクスウエル方程式のあまりに美しい対称性は、基礎となっているクーロンの法則やファラディの電磁誘導の法則からは直ちに導くことは難しく、真理を解き明かせば、大宇宙の構造に神の原理が見えてくるという思いにもかられるのです。 特殊相対性理論はその完全な電磁気理論と光速度不変の点で一致することから、時間が遅れ空間が縮むという直ちには受け入れがたい驚愕の仮定でさえも、真実はきっとそうなっていると思わせるものがありました。 ではマクスウエル電磁気理論は本当に正しいのでしょうか。その答えの糸口は最初の質問にあります。放射エネルギーが振動数の4乗に比例することは現実に合わないし、量子論でも整合しません。なにかが間違えているのです。特殊相対性理論に懐疑的な議論するとき、論拠の前提にマクスウエルの電磁気理論をもってしてはそれを肯定する結論しかでません。特殊相対性理論を否定する学説はまずこのことを考えなくてはいけないのです。 |
スイス人物理学者ウオルター・リッツはアインシュタインより 1 歳年上で共にチューリッヒ工科大学で学び、1908 年弱冠 30 歳でスペクトル線を説明する法則(リッツの結合則)を発見した天才です。同じ年に光速度は一定ではなく光源の速度により変わるとする電磁気の放射理論 (emission theory) を発表しています。これによってもマイケルソン・モーリーの実験を矛盾なく説明できるのです。しかしライデン天文台のド・ジッターの論文(2重星の軌道観測から光速度は一定であるとした)により、特殊相対性理論が優勢となりました。リッツが惜しくも病気のため夭逝したこともあり放射理論の進展は無く、現在では忘れられています。アンチ相対論の物理学者の関心も電磁気理論の再構築からは遠ざかり、特殊相対性理論が内包するパラドックスなどの議論に向かいました。現在では天体観測技術の進歩により当時知られていなかった恒星の周囲に存在する星周塵が観測されており、そのことにより2重星問題はリッツの放射理論でも説明が可能になるのです。 |